「け…顕奕よ・・何を言っとるんだ?
 この様な時にそんな冗談を…」





「…兄上が密偵を出して確認させた所、洛陽は正に火の海。
 辺りを黒煙が覆い、この世の天地とは思えぬ惨状との事です…」




「…嘘でしょ?」



「残念ながら、真実でございます・・・」



「………」



「ち、父上?」



「……う〜ん…」


[バタッ]


「ああっ 殿が!」



「倒れたでござる!!」



「だれか!殿を安静な場所へ!」



[―数刻後―]



「おい田豊、殿の具合はどうなってる?」




「今しがた目を覚ましたようだ。
 どうやら精神的ショックによる一時的な失神だったらしい」




「大事に至らずになによりでござった」




「父上には申し訳ない事をしてしまいました。
 父上にも戦いの疲れがあったでしょうに、私が急にあんな報告を…」





「袁煕殿が気にする事は無いと思う。
 そのような緊急事態、早く知っておく事に越したことは無いだろう」



[ガラッ]


「文醜の言うとおりだ顕奕…よくぞ知らせてくれたな」



「父上!」



「殿! お体の方は大丈夫なのですか!?」



「うむ…洛陽が焼かれたと言うのに、寝てる訳にもいかないだろう」



「殿…心中お察し致します」




「しかし、私も未だ半信半疑なのだ。正直な所な。
 洛陽は漢朝四百年の都だぞ?誰がどう燃やせるというのだ」





「確かに…イマイチ実感が湧きません」






「そういや袁煕殿は、とある人物が洛陽の状況を知らせてくれたと言ってたが・・
 とある人物って誰なんだ?」




「そうそう。私もその人物から、当時の状況を詳しく聞きたいと思っておったのだ」




「みなさんがそう仰られると思って、
 実は私と共に平原へお越し頂いています」





「ほう!ではすぐにでも話を聞けるのか。
 それはありがたいな。顕奕、その方を呼んで参れ」




「はっ では只今お呼びしましょう」

「蔡文姫殿〜!」



[ススッ]


「ら〜〜♪」



「!?」



「おぉ〜悲しみの都〜洛陽よ〜♪
 漢朝の歴史〜炎に消え〜♪
 わたくしの胸は〜張り裂けんばかりぃ〜♪」




「お…おい!どういう事だ顕奕!この女子、いきなり歌い出しおったぞ!」




「え?いや…私に言われましても…
 我々に洛陽の事を伝えに来た時も、こんな感じで・・・まず、歌い始めまして…」




「秋の冷たい風でも〜洛陽の炎〜消せはしない〜♪
 天下に満ちるのは〜怨嗟の声だけ〜♪
 わたくしも涙で衣を濡らす〜♪悲しいですわ〜♪」




「…?? なあ高幹殿、
 俺には音楽の才能が全く無いから聞くんだが…
 この女の歌、上手いのか?」





「え!? いやぁ…拙者もそこまで芸術の才は無いのでござるが
 この歌は…なんと言うか…う〜ん…」



「ま…まあ、非常にコセイテキな歌ではありますな…」



「あぁ、なんでこんな時代に生まれてしまったんですの〜♪
 悪魔のような董卓の所業〜♪許せませんわ〜♪
 誰か〜居ないのでしょうか〜♪天下を救う〜勇者は〜〜♪」




「……」



「…………」



「……………」



「…終わりましたでしょうか…?」



「…ええ、気持ちよく歌わせてもらいましたわ。
 ちなみに今の歌の曲名は 「落日の洛陽、泣くわたくし」 といいますの。
 覚えておいてくださいね?」




「は、はぁ…」




「……ところで、歌い終わって早々に悪いのだが、
 そもそも貴女は何者なのか…教えてくれぬかな?」




「まあ!わたくしとした事が…とんだ失礼をしましたわ!
 わたくしは蔡エン、字は文姫と申しますの。
 蔡文姫とお呼び下さいな」




「もしや!貴女はあの蔡ヨウ殿のご息女ですか!?」



「ええ、蔡ヨウはわたくしの父ですわ」



「おお! あの学者として高名な…」




「確かに蔡ヨウ殿の娘は、父に劣らぬ才女と聞いていましたが…
 それは貴女の事でしたか」





「ふふふ 嫌ですわ、才女だなんて。
  私にあるのは、輝かんばかりの歌の才能だけですわ」




「え!? う、歌の才?」



「確かに先ほどの歌は独特の物でござったが…」




「ま…まぁ歌の話は置いておくとして…
 蔡文姫殿、早速だが聞きたい事があるのだ」





「はい、承知していますわ。
  洛陽の事ですわね」
 



「やはり董卓が洛陽を焼き払い、長安に遷都を?」




「はい、反董卓連合を恐れたのでしょう。
 それはもう強引な遷都でしたわ…
 引き止める百官を振り切り、反対する者は斬り…
 洛陽に住む民達からは財産という財産、全てを略奪しました」




「うぬぬ! 董卓めぇ!!」



「許し難い行いです…」



「そして長安へ民を強制的に移住させ、残った洛陽を焼き払ったのですわ。
 洛陽の混乱はひどいもので、わたくし自身もその混乱の中、
 危うく賊に攫われそうになりましたの…
 その時は、わたくしの歌で賊を追い払いましたが…危ないところでした」
 


「う…歌で賊を!? どうやってでござるか!?」



「さあ?わたくし、ただ歌っただけですので…
 恐らくわたくしの歌を聴き、心が洗われ、
 自分の愚かさに気づいたのだと思いますわ♪
 そうやって賊はそそくさと退散して行きましたの」




「歌にはそんな力もあるのでござるか!
 拙者、感服したでござる!」




(単に気味悪がって逃げただけだと思うが…)



「しかし、ひでぇ事をしやがる! 董卓の野郎!!」



「蔡文姫殿も、大変な苦労をなさったのでしょうな」



「ええ…このままでは危ないと、父と一緒に洛陽から逃げようとしたのですが…
 父は…董卓の知遇に少なからず恩義を感じていた為か、逃亡を断りましたわ。
 そこで、わたくしは父と袂を分かち、単身での脱出を決意しましたの…」





 「その後、反董卓連合の盟主である私に その事実を伝えに来た訳か」
 



 「その通りですわ」


 「ふむ…それにしても、洛陽の崩壊を諸侯は黙って見ているだけだったのか?」



「いえ…ただ一軍…曹操様の軍だけは、果敢に董卓の軍を追撃なさっておいででしたわ。
 しかしそれも、虎牢関で敵将、華雄に阻まれてしまい…
 おそらく追撃は、失敗に終わったと思いますわ」




「ふむ…曹操め、やるではないか。
 しかし、なんと他の諸侯のふがいない事よ!
 やはり私が行かんと話にならん!」





「しかし、董卓が長安を本拠にしたとなると…
 これではさらに董卓を討つ事が難しくなりましたぞ」




「長安は天然の要害に守られておりますからね」




「いや! どんな困難があろうとも、私は董卓を討つぞ!
 ここまでされて、黙っていられる男子が居るはず無いだろう!」




「俺も殿と同じ気持ちだ! 董卓の野郎は一秒たりとも生かしちゃおけねぇ!」



「拙者もでござる!」



「私も董卓を討つためには、尽力を惜しみませんぞ!」



「まあ、私も董卓を許すつもりなどありませんが…」



「私は父上について行きます」




「ぃよっしゃあ! 我々の怒りを、董卓に思い知らせてやるぞぉ!!」






「さすがは名門、袁家の方々! 熱血ですわ!
 …そんな熱血な皆様に少しお話があるのですが…」





「おう!お主の報告のおかげで、我らの結束、決意は共に鋼鉄のモノとなった!
 褒美をとらそう! 何を望む?」




「わたくしは帰る場所を失いましたわ…ですので、
 出来ればこのまま…袁紹様のお力になりたいと思うんですの。
 …お願い致しますわ!」





「仕官したい…と申すか。
 ふむぅ、田豊よどう思う?」





「蔡文姫殿は才媛として誉れ高き女性です。
 必ずや我が軍の力になっていただけるかと」





「よし! ならば仕官を許そう。
 これからは我が袁家の一員として、誇りを持って行動してくれぃ!」





「光栄ですわ! それでは、皆さんとお近づきの印に…
 蔡文姫! 一曲歌わせてもらいますわ!」




「それは又の機会に頼む…」



[袁紹軍 蔡文姫の登用に成功する]



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