「はぁ…」



「父上がまた溜息をついておられる…」



「…流石に孔融殿の連合脱退は堪えたようです」




「ったく 韓馥の野郎といい…連合に加盟してる奴らも
 やっぱり信用できねぇな」



「やはり乱世では同盟など何の力も持たないのでござろうか…」




「殿! もう少しシャキッとして下さい!
 殿がそんな調子では、皆の気も滅入ってしまうではありませんか!」





「しかしなぁ…反董卓連合が  『さあ これから!』  …って時に連合脱退者が出るんだもの…
 他の諸侯も、反董卓連合を抜けようかどうか迷ってるらしいし…」





「我らは董卓を討つために立ち上がったはずです!
 諸侯がどうしようと、我らが董卓を討つという目的に何の変わりもありませんぞ!」




「まぁ、そうなんだが… どうにもやる気がなぁ…」



[タッタッタッタ]



「殿〜!」



「うん? 崔エンか…なんか用?」



「はっ! 実は先ほど、南皮におられる袁譚様から竹簡が届きまして…」



「おお、兄上からですか」




「そういえば南皮の事は顕思に任せっぱなしだったのう。
 竹簡には何と書いてあった? 元気でやっていれば良いが」





「内容は南皮の北の動向についてだったのですが
 どうやら北平の公孫サン薊の劉虞殿攻撃しているようです」




「何ィ!?」




「実際に攻撃が始まったのは数ヶ月前だったようですが…
 その時の様子がこちらの竹簡に」



[竹簡に記されていたのは 攻城兵器を使い 薊を攻める公孫サンの軍勢と
 それを迎撃する劉虞軍の攻防の様子だった]




「こ…これは…」



「公孫サンめ…劉虞殿が皇族であると知っての狼藉か!?」




「えぇい! あの田舎武者が!!
 自分がどれだけ畏れ多い事をしているのか分からんのか!?」




「劉虞殿の軍は何とか持ちこたえているようですが
 さらに晋陽の太守、張楊も 公孫サンと結託して、劉虞殿を狙っているらしく…」



「なんだとぉ!?」



「…何という事を…」








「……なぁ、高幹殿」



「何でござるか?」




「殿達の話を聞いてると、
 どうやら劉虞ってぇ野郎が他の軍から攻撃を受けているみたいだが…」
 


「その通りでござる」




「どうも俺には我が軍と、その劉虞や、他の軍との位置関係がイマイチ分からねぇんだ。
 そこん所を少し詳しく教えてくれねぇか?」



「…そうでござるな。
 では現在の河北の情勢について、僭越ながらこの高幹が
 文醜殿にご教授いたそう」



「おう  頼むぜ!」



「まず これが今、河北に割拠する群雄の位置関係でござる」







「おぉ さっきから殿が騒いでる劉虞ってのは こいつか!」



「そうでござる。
 彼は皇族でありながら、薊の太守として民に善政を敷く名君なのでござる
 彼の人望は天下に轟き、殿も劉虞殿を敬っているのでござる」



「んで その名君を公孫サンの野郎が攻撃してると…」
 


「元々、公孫サンと劉虞殿は仲が悪かったのでござるよ。
 そしてこの乱世を鑑みれば、公孫サンがこのような蛮行を起こした事も
 不思議ではないのでござる」




「んで、この戦はどうなる?
 劉虞は公孫サンを撃退出来るのか?」




「劉虞殿は戦が不得手でござる、それに対し、公孫サンは強力な騎馬軍団を擁しているでござる。
 この点で劉虞殿は、かなり不利であると言えるでござるな」



「やべぇじゃねえか」




「その上、晋陽に居る張楊の軍も 劉虞殿を狙って動き始めたようでござる。
 これによって、劉虞殿は二方向からの攻撃を受ける事になり…」



「……どうなる?」




「…公孫サンと張楊、二者からの同時攻撃を 劉虞殿が防ぐ事は…不可能でござる。
 このまま行けば、薊は確実に陥落するでござる」



「おいおい…助けなくて良いのか?」




「此度の竹簡は、その判断を殿に仰ぐための物でござるよ。
 しかし…恐らく救援部隊を派遣する事は 無理でござろうな」



「何でだよ?」



「それは……」







「よっしゃ! すぐに南皮から薊へ兵を派遣し、劉虞殿を助けるように
 顕思へ返事を書こう!」



!? 何をバカな事を言っているのです!」




「ばっ…バカとは何だ。 我が名門袁家が、同じく名門の劉虞殿を助ける…
 至極当然の事ではないか」



「…私も劉虞殿の救援は、得策ではないと考えます」



「ちょっ…なぜだ!? 田豊だって先程は憤慨していたではないか!」




「ソレとコレとは話が別です。
 劉虞殿を助けるという事は、公孫サンや張楊と干戈を交えるという事ですぞ?」



「ふん、 私が奴らに負けるとでも思っているのか?
 所詮は異民族に毛の生えた程度の奴らだ。
 我が軍の力を持ってすれば、たやすく打ち破れるわい」




「…お忘れですか? 公孫サンと張楊は反董卓連合の一員として
 我が軍と同盟を結んでいるという事を…」



「嘘ォ!?」



「嘘じゃありません。
 確かに 彼奴らは董卓に対して何ら有効な手は打っていませんが…
 反董卓連合に名を連ねています」



「形骸化しかけている連合とはいえ、殿は盟主なのです。
 殿が他の加盟者を攻撃するような事があれば…
 連合は瞬く間に瓦解し、天下の信望は殿から離れてしまいます」



「そんな事をしたら 周囲は敵だらけとなり、
 董卓の居る長安へ攻め上る事は、相当困難になるでしょう。
 どうか思いとどまっていただきたい…」



 「し…しかし…劉虞殿を見捨てる事など…」




「目的を見誤ってはなりません。 我らが挙兵したのは董卓に天誅を下すため…
 殿が小事にこだわり大事を損なう事など、 我らは望んでおりませぬ」




「…分かった…顕思には現状を維持せよと返事を送れ…」



「かしこまりました」



「ご英断です…」



「劉虞殿…すまぬ…」




[それから 数日経ったある日…]




 「皆の者、聞けぃ! 私から重大発表がある!!」



 「重大発表? 戯志才殿、何かあったんですの?」



 「いえ…私はこのような発表があるとは聞いていませんが…」



 「私も初耳ですぞ?」




 「殿…困ります。 
  発表があるなら事前にその事を伝えておいて下さらないと」




 「ええぃ! やかましいわ!
  たまにはいいだろうが! こういうサプライズがあっても」



 「それで、重大発表とは一体…?」



 「うむ! 我が軍は近々、洛陽へ出兵する事にする!」



「何ですとぉ!!?」



 「お…お前ら、いささか驚きすぎじゃないか?」



 「しかし殿! ソレは無謀です!」




「今の洛陽は廃墟ですし、占拠する事は容易でしょう。
 …問題は洛陽に隣接している長安です」
 



「伝令の報告では、長安には董卓軍の兵、6万が駐屯している模様…
 洛陽を占領すれば、すぐにでも我が軍に襲い掛かって来るでしょう」



 「現時点で平原の兵力は2万5千… 6万の兵を相手にする事は難しいですわ」




「それに、いくら平原の内政が整って来たとは言え、武器や軍馬は不足しています。
 まずはこれら充足させなければ、洛陽へ遠征など とても…」




「ふん、お前らの言う事など百も承知じゃい。 だがな、私はもう決めたのだ。
 董卓を早々に討伐し、この反董卓連合を終わらせるとな!」




「反董卓連合を終わらせる…?」





「…劉虞殿の一件で、 私は反董卓連合に ほとほと愛想が尽きた。
 私の行動を縛る連合など、最早必要ない…そうは思わんか?」





「確かにそうとも言えますが…それなら他にも方法があるのでは?
 例えば同盟を破棄する旨を、諸侯に通達するとか…」




「盟主である私が同盟を破棄するなど、そんなみっともないマネが出来るか!」



「……」




「董卓討伐の目的を果たし、胸を張って同盟を終了させる!
 コレこそ私にふさわしい同盟の終わらせ方であろう!」



(…そんなプライドにこだわっている場合では無いと思うのだが…)



「とにかく、これは決定事項だ、 他の者にも伝えておけ。
 私はこれから洛陽へ進軍する為の準備を始める。 各人も準備を進めておくように!
 私の話は以上だ!」



「む…無謀すぎる…」



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